「狂った日本」の原因だとはいわない。
だが、一国のありよう、マナー、治安、文化などが、社会の絶対多数者である労働者を中心とした庶民・民衆の状態の反映であることは疑いない・庶民がゆとりを持つ国へ行くと癒される。
ホッとするではないか。
日本は逆だ。
この国にいるだけでイライラする、「国民総イライラ社会」状況が現出している。
こういう私自身、例外ではない。
日常的にもそうだが、なんとかせればとイライラしながら、この本を書いている。
内閣府が8月30日に発表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の日常生活で「悩みや不安を感じている」と答えた人が67・2%に上る。
これは「過去最高」(1958年の調査開始以来)であるといえよう。
こうした鯵屈した状況のもとで、社会経済生産性本部の第2回「産業人メンタルヘルス白書」によると、最近3年間の企業における「心の病」は、約半数の企業で「増加傾向」にある。
最も多い疾患は「うつ病」であると、72・3%の企業が回答している。
従業員21000人以上の企業では、この比率が84・5%に上っている(同本部のホームページから。
02年8月23日発表)。
また、厚生労働省が03年8月25日にまとめた「労働者健康状況調査」によると、仕事で体が疲れる人が7割、強い不安やストレスがある人が6割に上るという。
以上のような状況に鑑み本章では、まず、今日の労働者状態の深刻さを雇用・賃金・労働時間などを中心に明らかにする。
これとの関連で精神障害など健康破壊の急激な進行にも言及する。
ついで、なぜそのような深刻な事態となったのか、その原因を探る。
関連して労働者支配のイデオロギーであった「パイの理論」、労使協調主義の破綻にも言及する。
これは事態の新展開がもたらした支配層にとっての矛盾である。
むろん、矛盾はこれにとどまらない。
さいごに、そこから労働者・国民を救う、さらに日本を救う、もう一つの道ゆとりのある「福祉重視社会」の道はないのか、若干の問題「純で優しい人」が堂々と生きられる社会をめざしたい。
みんなが安心して暮らせる社会を、ぜひ創ろうではないか。
資本主義のもとでも、「よりましな社会」の実現は民主的規制の強化などで可能なはずだ。
夢に胸を膨らませた、生き生きとした若者たちがみたい。
そんな社会をつくるだけの潜在能力・民衆の力がこの国にはある。
人の命まで奪う競争万能の社会は許せない。
日本の針路を変えよう。
未来を語り合おう。
それにはまず、以下(第一節)のような現実を直視しなければならない。
同時に、そのような深刻な現実のなかに「変革の展望」がみいだせることも行論で指摘してゆきたい。
提起をしたい。
労働者は自己の労働力を売り、その代価である賃金で生計をたてている。
ところが近年、労働力が売れにくくなっている。
売れても、安い賃金でしか売れない。
労働力は時間を決めて売買されるべきだが、それが守られず残業が恒常化するだけでなく、ただ働きの「サービス残業」が蔓延している。
成果主義管理の導入などで労働者間の競争が織烈になり、労働密度・緊張度・ストレスが異常に高まっている。
また、労働者が失業・疾病・高齢などで賃金を受け取れなくなれば、各種の社会保険・社こうしたなかで、労働者・国民の多くがゆとりを失い、不安をつのらせ、過労死・過労自殺まで増加させているのだ。
この国は「国民総イライラ社会」状況に陥っている。
「これまでうつ病やノイローゼは個人の問題と片付けられがちだったが、どんな職場でも誰でも発症する可能性があることが浮き彫りになった」と社会経済生産性本部の調査も指摘している(021年8月13日発表の労働組合員対象の調査)。
同調査によると、この傾向が今後さらに強まると予想している労働組合が90・9%にも上るという。
いまや過労死に象徴される健康破壊・精神障害が、社会の矛盾の「もっとも鋭いあらわれ」となっている。
かけがえのない尊い命が脅かされ、失われているのだから。
そしてその「予備軍」が無数に存在するのだから。
むろん、うつ病などの精神障害、過労自殺などの背景・要因は、個々のケースで異なり、きわめて多様で諸要因が錯綜している。
それゆえ、その原因究明は慎重でなくてはならないが、犠牲者の増大が90年代の後半以降であることは各種の調査で実証されている。
そして、その時期に「国際競争力強化」の掛け声のもとに、リストラの嵐が吹き荒れ、成果主義の人事賃金管理が急激に広がったことも否定できない事実である。
その間、政府も「構造改革」の名のもとに、教育なども含めあらゆる分野で「競争原理」を徹底させ、福祉・社会保障も切り捨ててきた。
一言でいえば、「新自由主義改革」会保障で生活が保障されなくてはならないが、現実にはますます国家的支援公助が抑制・削減されている。
「構造改革」が猛威をふるうようになった時期に照応している。
こうしたなかで、労働者・国民の「現在の苦しみ」にくわえて「将来の不安」も急激に増大させることとなった。
私のいう「国民総イライラ社会」状況の出現は、以上のような状況の反映であるに違いない。
結局、人々が生きていくための基本である「労働と生活」をめぐる環境・条件が激変し、これが「国民総イライラ社会」を出現させている、ということだ。
「労働のあり方」そのものの変化も大きい。
労働とは、基本的には、目的意識的な生産活動である。
だが、今日のほとんどの労働で、働くものの「目的意識性」が奪われ、「牛馬の苦役」にかぎりなく近づいている。
飼主に強いられた牛馬の営みは「労働」とはいえない。
牛馬自身に「目的意識性」など微塵もないからである。
なるほど資本主義社会での労働は、使用者の指揮・命令下でおこなわれるので、基本的に「疎外された労働」となる。
Aも労働を「骨折り」、「苦しみ」とみた。
だが、同じ資本主義国・日本であっても、以前はもっと「まし」だったのではないか。
終身雇用慣行のもとで、技や腕の積み上げが見込めた。
だから将来の生活設計もある程度たてられた。
現在は苦しくても将来はもっと「まし」になるという期待を多くの労働者が共有できた。
若者の多くが「親たちより豊かになれる」という期待をもてた。
これらの心情の反映が「中流意識」の広がりとなった。
いまや多くの国民から「中流意識」も消え去った。
少数の富者と多数の貧者への2極化が、今日の特徴となっている。
競争万能社会の当然の結果であろう。
もともとまやかしの「パイの理論」の正体が、いまや誰の目にもあきらかになった、ということだろう。
さまざまな矛盾が蓄積しているのだ。
社会は大きく動こうとしている。
この側面を見落としてはならない。
ここではまず、雇用・賃金・労働時間等の現状をみておこう。
それらの急激な劣化が過労死など健康破壊の直接・最大の要因とみられる。
順次その現状をみたあと、これとの関連で精神障害など健康破壊拡大の実態を明らかにする。
そこに社会変革の条件が蓄積されている。
まず雇用問題の深刻さをみよう。
それは第一に、失業者の増大、端的には失業率の高さにあらわれている。
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